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事例063 家族だから

「デイサービスはやめさせていただきますから!お世話になりました!」

女性利用者Aさんの娘さんからの、突然の電話でした。
普段は穏やかな娘さんですが、電話の声はいつもと違ってイラだった様子でした。
理由を聞く暇もなく電話は切れてしまったのです…

一体どうしたのか、色んな考えが一気に巡りました。
もしかしてデイサービスが失礼な言動、対応をしてしまい、怒らせてしまったのでしょうか。


しかし、理由は全く違いました。

しばらくして、担当ケアマネージャーから連絡が入り、理由が判明しました。

その理由とは…


電話をくれた娘さんは、Aさんの長女です。

ちなみにAさんは車椅子で、食事もお風呂もほぼ全介助が必要で、認知症が有り、時には暴言や暴力もあります。
娘さんは、母親であるAさんをデイサービスやショートステイに通わせながら自宅で介護していました。

時々、「昨日オムツ交換してたら、髪の毛掴まれちゃって、あんまり痛いから、おでこピシッと叩いちゃったわ!そしたら余計怒っちゃった…小さい頃は母に良くしかられてたけど、いまは逆ね…」など、デイサービスの送迎の折に日々の介護のストレスや悩みを話されていました。


不満を言われることもありますが、「大変なこともあるけど、あまり環境を変えることなく、なるべく家族で一緒に生活をしたい」、というのが娘さんの思いでした。


ある日、娘さんは久々に、遠方で暮らす自分の妹と電話をしました。
日常の介護で、大変なこともある、ということが話題にあがりました。
「バカ!」と罵倒されることは日常茶飯事。
叩かれたりひっかかれたり、大変なことも多い。そんなことを話したそうです。

するとそんな話を聞いていた妹さんが一言。

「そんなに大変なら、もう施設に入れることを考えてもいいんじゃない?」
妹さんは、お姉さんを心配して言ったのです。

しかし、これまで母のためにと頑張ってきたことが、余りにも簡単に解決されようとしたことが許せなかったようです。ふと、どうしようもない怒りが湧いてきて、突発的にこんなことを言ってしまったのです。

「じゃ、あなたのところに連れて行くから、施設にいれるなりなんなり自分でやんなさいよ!」

そして怒りのままに、デイサービスやケアマネージャーに「もう辞めます」と連絡したのでした。


ひとしきり連絡したところで、ハッと我に返ったのだそうです。
私は何をしているのだろう…と。

Aさんの娘さんは後から言いました。
「妹は私を気遣って言ってくれたのに、なぜだか、そう思うことができませんでした。

母のために、私が頑張らなくてはと一生懸命になり過ぎて、自分を気遣うことを忘れていました。
そういえば最近は母がいるからと、友達に誘われても会いに行かなかったし、息抜きすることも忘れていました。

母のために、こんなに自分を犠牲にして尽くしているのに!と思ってしまったのです。でも、そうしているのは自分なんですよね。デイサービスだって、ショートステイだって使っているし、友達に会おうと思ったらいつでも会えるのに。」


さらにこう言います。
「私がもともと一緒に住んでいたから、当たり前のように介護をするようになったんです。少しくらい大変でも、母のために最後まで自宅で看たいという私の思いを伝えたことはなかったし、妹が母を施設に入れてもいいのではないか、という思いがあることすら知らなかった。勝手に、妹も私の気持ちを分かってくれているのではないか?と思ってしまっていたんですよね。」


その後 娘さんはこのことがきっかけで、姉妹でそれぞれの考えや今後できることを話し合ったそうです。
Aさんはデイサービスを利用し続けることになりました。
妹さんからは、以前より連絡が来るようになったそうです。


家族だから分かっているつもりになっていること、家族だから言わなくても分かってくれていると思い込んでいることがありませんか?
介護の話だけでなく、どんなことにも繋がることかもしれませんが、今の日常をお互いどう思っているのか、これからどうしたいと思っているのか、あえて時間を作って、話題にしてみるのもたまにはいかがでしょうか?

当たり前と思い込んでいて気づかなかった、家族の意外な思いが聞けるかもしれません。
Category: 介護の現場から(事例集)
Published on: Thu,  10 2016 08:00
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