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事例059 家族の責任?

2月2日に最高裁判所で、ある事故の責任を巡った弁論が開かれました。

この事故は平成19年、愛知県大府市のJRの駅構内で、徘徊していた認知症の男性が電車にはねられ死亡した事故。JR東海は、家族が本人の監督責任を怠ったとして、列車に大幅な遅れを出し対応にかかった費用を、1審では妻と長男に720万円、2審では妻に360万の賠償を命じ、双方が上告しているというものです。


弁論での双方の主張は以下の通りです。
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【JR】
長男は同居していなかったが、介護の方針を実質的に決めていた。
2人には、徘徊を防ぐ監督義務があったのに対策を怠っていた。
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【家族の弁護士】
監督義務を負わせると、介護家族の負担は一層過酷になる。
家族が一瞬も目を離さずに見守るのは不可能だ。
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この判決は、来月3月1日に言い渡されるようで、最高裁がどのように判断するのかが注目されています。



これまでの現場経験で、私は認知症の方々やご家族と深く関わってきました。
認知症の方の中には、この【徘徊】と呼ばれる行動のある方もいます。

「徘徊」という言葉は、辞書を引くと「目的なくうろつくこと」というふうに説明されています。
ただ、介護の現場で見かけるものは、この辞書の意味の通りでもないのです。

家にいるのに、家に帰ると言って外へ飛び出したりする方。
こんなことしていられない!といって、会社に出勤する様子で出て行く方。
外へ行きたい、歩きたい、と言って一日に何十回も家を出ようとする方。

家族は、そのことが分かっているから、本人の世界に寄り添い、なるべく無理に行動を抑制しないように、でも安全を保てるように本人の行動に気を張っているのです。そして、そんな家族だからこそなおさら、お互いの生活や身体面・精神面とバランスをとるのがとても難しいのです。


●老老介護をしている奥様はこのように仰っていました。
「本人のやりたいようにさせてあげたいんです。一緒に歩いてあげたいんです。でも、一緒に歩くには私の体力が続かないんです。一日に何度も、外へ出る度について行ったら、私が倒れてしまいます。」

●小さな子供もいるお嫁さんはこう言っていました。
「家事仕事をしていると、どうしても目が離れます。子供もまだ小さいし、母の介護でずっと見ていることはできません。かわいそうだけど、玄関の鍵を二重にしました。なんだか最近、怒りっぽくなったような気がして…鍵のせいだと思います。でも、そうするしかないんです。」

●妻を介護するご主人はこう仰っていました。
「外へ出ると、他の家に入ろうとするんです。制止しながら歩いているのは、本当に疲れます。スーパーに行けば物を盗ろうとするし。お惣菜はつかんで食べてしまうし。トイレに行きたくなって、他の家の庭にしてしまったこともあります。私は、一日に何度人に頭を下げればいいのでしょうか。」


上述の裁判は、このような現実を過ごしている介護家族にはどのように映るでしょうか?
もしも判決で、この事故の責任が家族にあるとされ、多額の賠償金を支払うことになってしまったら、リスクを重視する介護家族が増えてしまうことは容易に予想されます。

電車の事故の例に限らず、一歩表に出ると様々な危険があります。
リスクを重視することは、外へ出さないようにするということに繋がります。

家に鍵を何重にもかける。
身体拘束をする。
行動を制限するような薬が処方される。

この裁判の判決は、今後の認知症の介護に大きく影響を及ぼすものだと思います。


この事故で亡くなった男性が家から自宅を出たとき、誰かご近所さんに会わなかったのだろうか?
どこかお店に立ち寄らなかっただろうか?
改札の駅員さんは気がつかなかったのだろうか?
駅の構内で事故が起こる前におかしいな、と思う人はいなかったのだろうか?

このような事故を防ぐためには
やはり、地域の方々の協力が不可欠なのではと、どうしても考えてしまいます。
この裁判から、地域で認知症の本人や、介護する家族を見守る街づくり対策が進むような、
これからのことを考えるきっかけになるような判決がされることを願っています。
Category: 介護の現場から(事例集)
Published on: Fri,  12 2016 22:20
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