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事例049 本当に好きになった人

グループホームでの会話です。

おやつの時間にテレビでワイドショーが流れていました。
芸能人のカップルが付き合ってるとか、別れるとか。

それを聞いて、ある女性の利用者が「昔はね、恋愛結婚とかしようものなら常識はずれなんて言われてね。皆お見合いよ、お見合い。好きも嫌いもなくさ。」

ほとんどの利用者がうなずきながら聞いている中、何か言いたげにこちらを見る女性がいました。
80代の女性Fさんです。
「もしかして恋愛結婚されたんですか?」と声をかけると、「いえ。お見合いなんですけど…」


その話にはこんな続きがありました。
Fさんは田舎育ちで、漁業が盛んな街で育ったそうです。

小さい頃は学校なんてろくに行けずに、親の仕事の手伝いをしていたらしく、
学校に行けるときは楽しみで楽しみで仕方なかったそうです。

Fさんの初恋はその同級生。
学校を卒業しても家が近くなので、たまに見かけたりしていてずっと好きだったんだとか。でも、世間は恋愛なんて許す時代ではなく、そっと思いを募らせているしかなかったんだそうです。


時が立ち、思いを告げることのないまま大人になり、
Fさんに親戚からの紹介で、お見合いの話が来たのだそうです。
お見合いを断るという考えもない。断ったともなれば親戚中の噂になったでしょう、とFさん。

結婚後は嫁入り先の家の風習に慣れることで精一杯。
子育てもあり、辛い思いをしていた時、好きだった人のことを思い出し、「あの人と一緒になっていたら…」と思ったときもあったそうです。

そんな時、街で買い物をしていると、ばったりその男性と出会ったそうです。

初恋の時の思いが巡って来た、とFさんは言いました。
お互い結婚していて家庭がありますが、こんな縁はないからと思わず、後日ご飯をする約束してしまったんだそうです。

別に変な気もないし、ただ少し話がしたかっただけだけど、なんだか今の旦那さんに悪いことをしているようでたまらない気持ちになり、「同級生の男性と食事をしてくるよ。」と報告したら、旦那さんは何も言わずに、いってらっしゃいと送り出してくれたのだとか。

当日は、懐かしい話ばかりで、あっという間で楽しかった。
その楽しかった気持ちを胸に抑えながら家に帰ると、普段無口な旦那さんが「今日はどうだったんだ、どんな話したんだ」と、そわそわしていたんだそうです。

初恋の人との時間は嬉しかったけど、それ以上に、家に帰った後の旦那さんの反応が、おかしいやら可愛らしいやらで、そっちの方が記憶に残ったと、Fさんは言います。
その日以来、初恋の人とのご飯は楽しい思い出として、旦那さんの為に尽くそうと思えたのだそうです。


Fさんは最後にこう言いました。

「好きになった人と一緒になれるなんて幸せな時代だと思う。
でもね、お見合いだったから不幸だったとは、一つも思わないわ。
私の中ではお父さんが“本当に好きになった人”ね。」


Fさんは認知症です。
お部屋には旦那さんと旅行に行ったときのツーショット写真がいつも飾られていて、お部屋に伺う度に、「これ私のお父さんなの」と何度も同じ話を教えてくれました。
ただ単に、言ったことを忘れて同じ話を繰り返しているだけかもしれませんが、私にはそれだけお父さんへの想いがあるということなんだ、と感じていました。

天国の旦那さんは、きっと照れていることでしょうね。
Category: 介護の現場から(事例集)
Published on: Fri,  04 2015 22:43
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