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事例集003 いつまでも先生

小学校の教師と、幼稚園の園長先生を経験され、定年退職されたEさん(男性)のお話です。
定年後も卒業生から手紙や年賀状が届くくらい、生徒によく慕われていたそうです。


Eさんは、レビー小体型認知症を発症し、デイサービスをご利用されていました。
時折「さっき子供がいたでしょう?」というような幻視の症状がありましたが、
認知症の進行は比較的穏やかで、4年ほどは大きな変化なく過ごされておりました。

まじめな性格で、ご自分の身体のことはとてもよく気をつけておられ、
ご自宅でも、パーキンソン症状に良い運動のDVD体操を行ったり、
主治医からの助言をきちんと守るようにされていました。
 
デイサービスで過ごされている間は、ご自分よりも周囲のことを先に気遣い、
いつも相手を敬うことを忘れず、ご自分より年上の利用者には先輩という接し方を崩さず、
私たちスタッフも社会人としてEさんの立ち振る舞いは見習わなくてはいけないなと思える素敵な方でした。
まるで、自分たちを教えてくれた先生のように、安心できる存在感でもありました。


あるとき、調子がわるい、とおっしゃる日が続き、受診した結果は肺炎と診断され入院することに。
しかし、なかなか容態は落ち着かず、次第に悪化していきました。

お見舞いに伺ったある日。
点滴治療をされており、むくみもひどく、会話をすることは不可能でした。
声をかけると返事をしてくれたような、そうでないような…という状況。

そんな中ちょうど、「お薬の時間です」と、看護師さんが練り薬のようなものを持ってきました。
健康な人が口に入れても飲み込むのに苦労しそうな形状の、真っ青な薬。

看護師さん、日常作業のように、容赦なくスプーンで口にねじ込みます。
もちろんEさんは、いやがり首をふります。
それでも看護師さんは薬を口に入れようとします。

その時です。
さっきまで言葉を発するのもつらそうだったEさんが、はっきりとした口調で言ったのです。



「あなたは私の気持ちを考えたことがありますか。」



「やめろ」でも「いやだ」でもなく、いかにも先生でいらしたEさんらしい一言。

看護師さんは一瞬言葉を失っていました。
そしてその後は、薬は点滴から落とされることとなりました。


その数日後、Eさんはお亡くなりになりました。
葬儀には、教師時代に体育祭で一生懸命走っている写真や、
教え子と最高の笑顔で映っていらっしゃる写真などが飾ってありました。


看護師さんに言った言葉は、そこにいた人全員の記憶に残る一言だったのではないかと思います。
最後まで教師として筋の通った人生を歩まれた、Eさんでした。

Category: 介護の現場から(事例集)
Published on: Sat,  17 2015 02:08
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