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事例集021 おばあちゃんと孫

デイサービスの夕方。
高層マンションに家族と住むおばあちゃん、Aさんの送迎から見えて来た、家族の風景です。

Aさんは、背が140センチ台と小さく、言葉少なで、非常に穏やかな性格です。いつもシルバーカーを押していて、ちいちゃくて可愛いおばあちゃん、といった印象です。

最近は、自宅でトイレの場所が分からなかったり、ご飯を食べたことを忘れたりします。何度も同じ質問をするようになり、認知症の症状が進んでいて、普段自宅で介護して来たお嫁さんは、「おばぁちゃんを見るだけで、ストレスなんです」と話し、家族の負担軽減のために、デイサービスを利用していました。

Aさんのマンションは高層マンションなので、エレベーターは、タイミングわるく乗り逃すとなかなか来ず、しばらく待たなくてはなりません。


ある日の送迎で、いつものようにマンションのエントランスの前に送迎車をとめ、シルバーカーを押しながらゆっくり進むAさんに、私が付き添ってエレベーターホールまで歩いていました。

突然、後ろから男の子数人の声が聞こえます。遊びから帰って来た様子でした。

「やべー!来てる!さっさと行っちまおーぜ!」

誰かがそういいながら、私たちが、なんとかエレベーターホールまでたどり着くか付かないかの間に、男の子らは私たちの脇をスーッと走り抜け、さっさとエレベーターに乗って行ってしまいました。

エレベーターが、降りてくるのをしばらく待つことになってしまった私たち。

あまりに心ない男の子たちの行動に、心の中で苛立ちながら、やっと降りてきたエレベーターに乗り、Aさんの自宅前へ。

インターホンを鳴らすと、「○○くん、おばぁちゃん帰って来たから鍵開けてあげて」、とお嫁さんの声。

無言でガチャ、と鍵が空き、「デイサービスです、ただいま戻りました!」と、私が扉を開けると、目の前にいたのは、なんと、さっきのエレベーターの少年。

Aさんの孫だったのです。
驚いたのと、なんで!?という気持ちと、とてもモヤモヤした気持ちになってしまいました。

Aさんに対し、「お帰りなさい」でもなく、シルバーカーを入れるのを手伝うでもなく、さっさとリビングの方へ行ってしまいます。


しばらくして、お嫁さんがエプロン姿で出て来て、「おばぁちゃんはお部屋にいって!」と話し、Aさんが部屋に入るのを確認すると、私がデイサービスでの様子を報告する暇もなく、話し始めます。

「最近は、なんにも分からなくなって、夜中もご飯がない、と言って起きて来て。自分の部屋も分からなくて、孫の部屋を開けるもんだから孫も怒って。旦那は仕事で遅いし、私ばっかり。もう限界なんです。ストレスなんです。」

仕事の忙しい息子、専業主婦の嫁、小学生の孫。そして認知症のおばぁちゃん。
デイサービスを利用する前から、Aさんの認知症の進行とともに家族の気持ちが変化していったのではないかと思います。


お嫁さんが、限界を感じる前に、差し伸べる手はなかっただろうか。
話を聞いてくれる場所はなかっただろうか。

子供というのは、そのような変化に敏感に気がつきます。
自分の母親が、誰かのせいで苦しんだりしていたら、その誰かを恨んでしまうのは当然かもしれません。

そうなる前に、出来ることはなかっただろうか。

老いや介護は、日常生活の延長線上にあって、誰しもが関わること。今、お隣さんかもしれない。レストランで隣のテーブルに座った家族かもしれない。明日、自分の両親かもしれない。

今の世の中は、働ける人、元気な人がリードをとってその人たちが暮らしやすい社会を築いているけれど、さて、その人たちが20年30年経ってそのリードを次の世代に受け渡した時、どんな世の中に生きていきたいか。

世の中は、欲しいものが手に入るように、すぐには変わりません。だから今から、老いや介護を身近に感じるシステム作りをしていかなくては行けない気がしています。
Category: 介護の現場から(事例集)
Published on: Thu,  21 2015 08:26
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