介護デザインプロジェクト

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事例261 施設で出されたお茶を飲まない理由

施設に新しく入居をしてきた80代の女性Aさんのお話です。
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Aさんはとても物静かで、口数の少ない方でした。
施設にはすぐに慣れた様子で、穏やかに過ごしていました。
しかし、職員が唯一疑問に思うことがありました。

毎食に出される緑茶を一切飲まないのです。
「お茶はお嫌いですか?」と尋ねると「いいえ」とだけ返ってきます。
入所前の事前情報では、好き嫌いはないとの情報もあったため、職員全員とても不思議でした。

いつしか、職員の中では“Aさんはお茶を飲まない人”と決めつけられ、そのうち“Aさんはお茶が嫌い”という思い込みに変わっていきました。


ある日のこと。
京都に旅行に行った年配の職員が、緑茶の茶葉と和菓子をお土産に買ってきました。
その日のおやつの時間に、みんなでいただく事にしました。

年配の職員が和菓子を準備している間、若い職員に「急須を出してお茶を淹れてもらえる?」とお願いすると驚きの答えが返ってきました。

若い職員
「急須ですね、分かりました。でも、茶葉ってどのくらい入れたらいいものなんでしょうか?私、急須でお茶入れた事ないんです。」

施設で出すお茶はいつも粉末状のものをお湯で溶かすタイプかティーバックでしたし、その若い職員は、自宅でも急須を使った経験がないとの事だったのです。

そんな会話を聞いていた、いつも物静かなAさんが、若い職員に「私でよければお茶の淹れ方を教えましょうか?」と言ってきました。

お茶嫌いで通っていたAさんが、まさかお茶のことについて話をして来るとは思わず驚きましたが、お願いすることにしました。

人数分の湯呑みを用意して、まず先にお湯を湯呑みに入れます。
急須に人数に見合った茶葉を入れ、湯呑みで冷ましたお湯を注ぎます。
1分ぐらい静かに蒸らし、蒸れたら、急須を少し回してから、湯呑みに均等に少しづつ注ぎ分けていきます。

とても丁寧なお茶の淹れ方でした。
そして、普段飲んでいるお茶とは比べものにはならないほど美味しいのです。

もちろんいい茶葉を使ったということもありますが、それに加えて、Aさんの丁寧なお茶淹れによって、おいしさが増していたんだと思います。

施設で入れるお茶を一切飲まないAさんも久々に飲みながらこう言います。
「お茶はいいですね。みなさんがいつも忙しそうにしている中で、業務的にお茶を入れているのをみていて、残念だな、って思ってました。食事もお茶も、その時間くらい忙しい手を止めてゆっくり心穏やかにその時間を楽しみたいと思いませんか?」

Aさんがお茶を飲まなかった理由が少しわかった気がしました。
粉末やティーバックが嫌いとか、そういうことではないのです。
Aさんにとってお茶の時間は心穏やかにほっととできる特別な時間だから、それを大切にしたかったのだと思います。

それから施設では、お茶を出すときは、Aさんに声をかけて入れてもらうことにしました。
丁寧に淹れたお茶は、他の入居者にも職員にも大好評でした。

たった一杯のお茶の時間でも、Aさんにとって日々を豊かに過ごす為の大切な時間なのだと実感した出来事でした。
Posted by おこないちかこ on  | 0 comments 

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