介護デザインプロジェクト

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事例260 寝たきりの父 思い出の卒寿の祝い

知人Aさんの自宅を訪ねた際、家族写真が飾ってある棚の一角に、大勢の人が写っているものがありました。
尋ねると、お父様の卒寿のお祝いに撮ったものだと教えてくれました。

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Aさんは男5人兄弟の真ん中です。
Aさんもその他の兄弟も、年に1回ほど面会に行く程度です。

父親は60代で認知症を発症し、70代で老人ホームへ入居、80代に入ってから寝たきりになり、たまに調子が良ければ、頷いたり首を降ったり出来るくらいで、ほとんど意思の疎通ができない状態になったそうです。

そんなある日、正月に兄弟で集まる機会があり、父親の90歳の祝い(卒寿)をどうするかという話になったことがあるそうです。


「どうせ寝たきりなんだから、お祝いしたって分かりもしないだろうし、もういいんじゃないか?」


「確かにな。ホームでお祝いしてくれるって言ってたし、俺たちが何かしなくてもいいだろ。」

他の兄弟も、なんとなく頷く感じで話が終わってしまいました。
しかしAさんは以前、父親の面会でホームを訪ねた際、介護士からこんなことを言われたことがあるそうです。

介護士
「お父様は普段寝たきりですし、意思疎通はほぼ出来ません。ですが、ご家族がきてくれた時の表情って、普段と全然違うんですよ。分かってらっしゃると思います。」

この言葉を思い出したAさんは、兄弟にこのことを話してみました。
すると、お兄さんが思い出したように話しました。


「あ、そういえばこの前うちの嫁が父さんの面会に行ったら、普段全然喋らないのに、孫の名前をぽろっと言ったんだって。私は〇〇ですよ、って言ったら、ちょっと笑ったような表情をしたらしい。ちゃんとは分からなくても、家族がきたことをは分かったんだな。そんな時もあるんだな。」

Aさんら兄弟はしばらく考えた後、花くらい持って、兄弟家族揃って面会に行ってみようかという話になったそうです。個々で面会には行っていましたが、兄弟揃って行くことはなかったので、いい機会になるだろうからと、みんなで会いに行く事になりました。

父の誕生日のお祝い当日、兄弟とその家族を合わせると、20人近くになりました。
ホームでは、特別に広々とした多目的室を用意してくれていて、お祝いの飾りまでしてくれていました。

揃って父に会いに行くと、大勢の人に驚いたように目を見開いた父がじーっと家族を見つめています。しばらくすると、父の顔がくしゃくしゃになり、ポロポロと涙を流して泣き出したと言います。

付き添っていた介護士さんが、「みなさんお揃いですね、この方は分かりますか?」
と兄弟の一人を指差すと、別の兄弟の名前を言いました。

「じゃあこの方は?と言うと、また別の兄弟の名前を言いました。
5人とも名前が当たることはなかったけれど、兄弟全ての名前を言ったのです。
名前を間違える度に、「父さんそれは俺の方だよ!」と家族皆が笑いになって、暖かい時間が流れたと言います。

最後に、全員で家族写真を撮って、次は白寿のお祝いだね、と言って別れたそうです。

それから数年後、白寿の祝いを待つ事なく亡くなったと言います。
Aさんは、今でもその家族写真を大切にしています。

兄弟で話をした時は、どうせ家族のことなんて分からなくなっているだろうから、と流れてしまいそうになったお祝いでしたが、Aさんが介護士さんに言われた言葉を思い出した事で最高の思い出を作ることができたのでした。

Aさんは、父親の変化について教えてくれた介護士にとても感謝していると言います。
介護士の言葉がなければ、父が生きているうちに兄弟家族で顔を合わせることも出来なかっただろう、と言います。

Aさんのように、老人ホームなどに親や家族がいる方々は、本人との面会だけではなく、余裕があったら職員さんとのコミュニケーションもとってみると、新たな発見があるかもしれませんね。たわいもない話でも、その中に本人と関わる上でのたくさんのヒントが隠れているかもしれません。


Posted by おこないちかこ on  | 0 comments 

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