介護デザインプロジェクト

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介護の現場エピソードや、現在の社会問題について情報を発信していきます。

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事例258 母に忘れられた時から

認知症の母親を自宅で介護している知人Aさんの話です。
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母親は数年前に認知症を発症し、Aさんと同居するようになりました。
現在は週3回のデイサービスに通っています。
物忘れが激しくなり、日常動作も難しくなっていて、たまに来る孫や兄弟のことはもう思い出せないようでした。
そんなある日、一緒に朝食を食べているときのことでした。
母親の言葉遣いに違和感を感じたそうです。

母親
「いつもすみませんねぇ。こんなによくしていただいて。でも、毎日大変でしょう。」

なんだかよそよそしくて、まるで他人に話しているような感覚だったと言います。
そこで、Aさんは母に聞いてみました。

Aさん
「何言ってるのよ、他人みたいに。もしかして私のこと忘れちゃった⁉︎」

母親
「ごめんなさいね。毎日家のこと手伝いに来てくれているのに。あなた、いい方よね。」

Aさんは一瞬、冗談でしょ!と、笑いかけましたが同時に、ついに私のことを忘れてしまったんだと言うことを突きつけられ、その現実を目の前に泣きそうになってしまったそうです。

なんと言葉を返せば良いのか、完全に動揺していました。その後、どうその場を取り繕ったのか覚えていない程ショックを受けたといいます。

母親にとってAさんはもう娘ではなく、身の回りの世話をよくしてくれるお手伝いさんになってしまったのです。
しばらくショックから立ち直れず、母親と話すたびに悲しくなって落ち込んでいる毎日でした。

しかし諦めきれず、なんとか思い出してもらえないものかと、試しに話した会話がきっかけで、気持ちに区切りをつけられたそうです。

Aさん
「娘さんはお元気ですか?」

母親
「あら、私まだ子供はいませんよ。」

母親は、古い記憶のまだ若い頃の時代に戻ってしまっていたのです。
ですから、母親の記憶に娘としてのAさんが存在するわけがないのです。

Aさんはこの会話をした日から、母親は今、昔の記憶を生きているんだ、と思うようになりました。
そして、母が生きている世界に生きてみよう、と思うようななり『娘としての介護』から『お手伝いさんとしての介護』に気持ちを切り替えてみることにしました。

すると母との会話もとても楽になり、徐々に”お手伝いさん役”も楽しめるようになったといいます。

今でも、いつか娘として思い出してくれたら嬉しいな、と思うこともあります。
せつない気持ちになることも。
でも、期待せずに今を過ごしているといいます。

Aさんは言います。
「認知症の介護している人の中で、親に自分の名前を忘れられた、とか、自分の存在自体を忘れた、という方がいらっしゃると思います。それによって落ち込んでしまったり、ケンカになってしまうという話も聞いたことがあります。
何の為に世話をしているのか分からなくなったとか、介護に対して前向きになれなくなってしまう気持ちもすごく分かります。

そんな時は是非、親が認知症によって今どんな世界に住んでいるのか、を知ろうとしてみて欲しいです。

若かりし頃なのか、子育て中の頃なのか、バリバリ働いていた頃なのか。
住む世界を理解しようとすれば、自分がどんな立場で向き合ったらいいかが見えてきます。

もちろん最初は気持ちの面で、そう簡単にはいかないかもしれませんが、もし、介護に立ち止まって悩んでいる方がいたら、参考にして欲しいです。」


Aさんの言う通り、認知症の人の『今住んでいる世界』を理解しようとすることは、とても大切です。
そして、少しずつその世界を『演じること』に慣れていくと、楽になることもあります。

慣れないうちには、それは親に対して嘘をついている、騙しているみたいで心苦しい、と思う方もいるようです。
ですが、時間をかけて『演じること』に慣れることで、スムーズに会話が進んだり、笑顔が増えたと感じられたら、それは決して間違いではありません。

認知症の人の住む世界に寄り添う気持ちを持ち続けられるかは、介護を続けるための重要なポイントであると思います。是非、多くの人に知ってもらいたいと思います。
Posted by おこないちかこ on  | 0 comments 

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