介護デザインプロジェクト

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介護の現場エピソードや、現在の社会問題について情報を発信していきます。

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事例223 二人暮らしの在宅介護

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認知症の母親を在宅で介護する娘Aさんの話です。

Aさんは、母親と二人で暮らしています。
母親が認知症を発症してから、一緒に同居をするようになりました。
症状が進むにつれ、物を盗られた、お金を盗られた、というようになり、被害妄想に苦しんできました。

介護負担を軽減するためと、意識を外に向け気分を変えてもらうために、母親には週3回のデイサービスに通ってもらうことになりました。

ケアマネージャーさんや、デイサービスのスタッフと話しているときには、母親はしっかりした態度で対応します。受け答えも普通ですし、冗談を言って楽しそう話しています。
通い始めたデイサービスの連絡帳にも、みんなと仲良く楽しく過ごしている様子や、今までやっているところを見たことがない、書道や絵葉書を楽しんでいることに驚いたそうです。
これでよかったんだ、母も楽しそうだしホッとした。と思っていたのですが…

すぐにその気持ちが変わってきたようです。

デイサービスに行っては、楽しそうに帰ってくる母。
しかしAさんには、表情も態度も一変、部屋に入るや否や、「私がいない間に、財布がなくなった。盗るのはあんたしかいない。」
食事では、「こんなご飯はまずくて食べられない、毒を入れたんじゃないか。」
Aさんが用事があって出かけると、「誰かと会って、私の悪口を言っていたんだ。」

やることなすこと全てが被害妄想になってしまい、しまいにはAさんも耐えられず言い合いになってしまったりして、母と顔をあわせる度に嫌な気持ちになる毎日に、うんざりしていたと言います。

デイサービスの日は、早く迎えがきて欲しい、ちょっとでも長くデイサービスにいて欲しい、と思うようになりました。
帰ってきて、デイサービスの職員に挨拶をする母の表情は、自分には全く見せないニコニコの笑顔。

母が楽しそうでよかった、という感情はいつしかなくなり、外面ばっかりいいくせに。と、逆に母に対する怒りが増幅していったと言います。

そんな状況に耐えかねて、ケアマネージャーさんに相談した時の事。
ケアマネージャーさんの言葉にハッとさせられたと言います。

Aさん
「もう限界です。デイサービスに行って母はとても楽しそうにしていることは良いのですが、帰ってきては私を泥棒呼ばわり。食事を作っても何をやっても私は悪者。母の身の回りのことは全部私がやっているのに。
早くデイサービスに行ってくれれば良いって、毎日思ってます。もう母の顔も見たくないし、母の世話もしたくありません。こうなったら、どっかの施設に入ってしまえばいいとも思ってしまいます。
昔は明るくて、冗談が好きで、世話好きで、私が仕事で忙しい時も孫の面倒もよく見てくれて、すごく良い母でした。昔のことを考えると、母には感謝したいことがたくさんあります。母に恩返しをしようと思って一緒に住みましたが、これじゃもうやっていけません。」

ケアマネージャーさん
「そうでしたか。昔のことを思い出すと、いまの現状は辛いですね。
ところで、Aさん、最近お母さんに感謝の言葉を伝えていますか?」

Aさん
「え?私が母にですか?世話をしているのは私なのに?」

ケアマネージャー
「唐突にすみません、実は認知症の方を介護していると、よくあるのですが、認知症の症状で困ったことになるのを避けるために、何もさせない、という状況を作ってしまうことがあるんです。さっき、お母様の身の回りのことは全部私がやっているとおっしゃいましたね。お母様は自宅にいるときに、何か役割がありますか?」

Aさん
「役割?
火を使ったり、包丁が危ないので台所には母はほぼ立たせません。洗濯機の使い方もわからなくなる時があるので、洗濯も私。掃除機をかけたりするのは母がデイサービスに行っているときにやるのでそれもなし。買い物も迷子になった時があるので、私が行きます。」

ケアマネージャー
「では、お母様は自宅にいるときは何をしていますか?」

Aさん
「部屋でぼーっとしていたり、テレビを見たり、庭の花を見たりですかね。」

ケアマネージャー
「なるほど。もしかしたら、お母様は誰からも必要とされていないことに苛立ちや悲しみを感じているのかもしれません。
もともとお世話好きな方ですしね。
ここで一つ提案です。Aさんからお母様に感謝の言葉を伝えて見てください。なんでも良いんです。お花に水をやってもらってありがとう。お孫さんが来た時に、昔は孫の世話をよく見てくれたよね、ありがとう。落としたものを拾ってもらった、とか小さなことから良いんです。」


ケアマネージャーさんの言葉を受けて、Aさんはこれまで、母に恩返しをするつもりが、全部自分が『やってあげている』という気持ちになっていたことに気づかされたと言います。世話好きだった母が、認知症になったことだけでも辛いはずなのに、家の役割を全て取り上げられて、娘からは「やってあげている」とという気持ちで接してこられることは、よく考えれば、とても酷なことだったと。

そして、そんな気持ちでいたことから、母に対して感謝の言葉を伝えるなんていうことは、さらさら頭になかったと言います。

Aさんは今、ケアマネージャーさんにアドバイスをもらいながら2人3脚で在宅介護を続けています。
被害妄想はまだ続いているようですが、時々笑顔で話をしてくるときもあると言います。とてもホッとする気持ちになるそうです。

介護をする家族が、心穏やかで心身共に健康でいられることは、在宅介護にとって最も大切なことの一つです。
誰かに相談すれば、きっとこれまで気がつかなかったアドバイスがあります。
一人で頑張らない。

二人暮らしは始まったばかり。
少しづつ、少しづつ、これまでの日々を改めながら、きちんと恩返しができるように進んで行きたいとAさんは話しています。

Posted by おこないちかこ on  | 0 comments 

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