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事例集015 家族の本音

デイサービスを利用していた90代の女性、Sさん。

認知症で物忘れがひどく、何度も同じ話を繰り返します。

難聴があり、耳元で大きな声で話しかけないと聞こえませんし、話し言葉がとても大きいので皆がびっくりして振り返ります。

Sさんは明るい性格で、歌が大好きです。

「昔は舞台に上がって歌を披露したもんだ!はははー!」
と言いながら、お得意の十八番"さざんかの宿"を熱唱します。

しかも歌の歌詞通りに…♪曇りガラスを手で拭いてあなたあしたがみえますか〜と、身振りをつけて歌います。

難聴のため、音程をとるのが難しく、何とも笑わずにはいられない愛らしいオンチ具合で歌ってくれます。
しかも大きな声で。繰り返し繰り返し。

最初は、笑って聞いていて下さる人たちも、そのうち(また始まったよ…)と言うように苦笑いです。

そんなSさんは息子さん夫婦やお孫さんと、大きな家に住んでいます。

ご自宅では、大きな家に響き渡るような大声で歌ったり、
「ちょっとちょっとー!」とお嫁さんを大声で呼んだりするものですから、お嫁さんはその声を聞くだけでも疲れる…と、疲れ果てている様子でした。

ご家族の介護負担もあり、デイサービスに通い、ショートステイも利用していましたが、さらに特別養護老人ホームに入所希望の申し込みをされていました。

お嫁さんは良く冗談まじりにこんなことを言っていました。

「わーわーしゃべってないで、デイサービスでは少し静かにしゃべるんだよ!」
「早く特養の順番が回って来たらいいのに…」


特別養護老人ホーム(特養)は、全国で待機者数50万人以上と言われています。数年も待っている方がいるほど、入りたいと思ってもすぐには難しいのが現状です。
お嫁さんも、それを分かっていらっしゃいました。

しかし、申し込みをして数ヶ月。
早いタイミングでSさんに、入居の順番が回って来たのです。

お嫁さんはその知らせを聞いて、びっくりしていたのと同時に、ほっとされた表情を見せていました。
それを見て私たちも、良かったな、と思っていました。


デイサービス最後の日。
挨拶もかねて、Sさんをご自宅にお送りしました。
Sさんは今日が最後のことを知って知らずか、「どうもねー!」と家に入っていきます。

お嫁さんと二人になり、

「今日でデイサービス最後でしたね。ありがとうございました。特養でも元気にお暮らしになるよう心からお祈りしています。」
そう声をかけました。

するとお嫁さんが、

「いやね、今までは、早く順番来ないかなーってほんとに願っていたんですよ。うるさいしね。でも…」

とおっしゃいます。そして、徐々に涙ぐみながら

「これで良かったのかなーって。まだ家に居られたんじゃないかなって。本人は家に居たいんじゃないかなーって。親の世話を放棄したような気にもなってきて。色々考えてしまってね。でもこの機会を逃したら、またいつまで待つのか分からないでしょう?本当にこれでよかったんでしょうかねぇ…」


予期せぬ言葉でした。あんなに入居を心待ちにしていたのに。
その時その状況になってみないとわからない、複雑な想いだったのだと思います。

この本音に、皆さんならどう答えますか?

お嫁さんやご家族の決断にも、この本音になんと返事をしようとも、人を想う気持ちに正解はありません。
ただ、相手のことを思い考えるその心、その時間こそが大切なのではないでしょうか。
私はそう思います。
Category: 介護の現場から(事例集)
Published on: Thu,  09 2015 08:00
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