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事例集013 「私の話を聞いて…」

デイサービスでのトラブルから学んだお話。

80代の女性Aさんは、浦安育ちで、代々の地主さん。
ご自慢のお父様のお話を良くしてくれました。
「父親は商人で、背が高く男前、東京に行くときはスーツでステッキを持って歩いていくのよ。」

ご本人もお洒落で、身につけているアクセサリーはとても高価な物ばかりで、いつも指輪をたくさんつけてらっしゃいました。

ご自宅に伺うと「あれもこれも持っていきなさい」と、お土産をたくさん持たせてくれようとする太っ腹な性格の方です。

認知症の症状としては、“物が盗られた”などの被害妄想がありました。



もうひとり、60代の女性Bさん。

認知症を発症するまでは生まれの青森にいましが、旦那様を早くに亡くしており、浦安に住む娘様が一人暮らしを心配し、呼び寄せて一緒に住んでいます。

活発な性格の方で、誰にでも気さくに声をかけます。
しかし、ご自宅では鬱の症状が出たり、“誰かが見ている”などの被害妄想が出ることもありました。


同じ曜日に通うお二人。


しばらく通っていると、Bさんの気さくさもあり、お互いに顔を覚えてきて世間話をしたりするようになりました。レクリエーションに一緒に参加するときは「隣に来なさいよ」と、声を掛け合い仲良く過ごしていました。


ある時から、Aさんに“物盗られ妄想”の発言が出てくるようになりました。

最初は「デイサービスに来た時に指輪がなくなった」、ということで、具体的な人の名前などは出てこなかったのですが、しばらくすると、いつも一緒にいて仲の良かったBさんに矛先が向くようになりました。


一緒にいるときは、普段と変わらない様子でBさんと話をするのですが、離れたところにいると、Bさんを指差しながら「あの人、私の指輪を盗ったのよ」と、スタッフに陰口するようになっていきました。


指輪をつけるのは習慣になっているようで、外して施設にきてもらうことが難しかったので、この状況をなんとか改善しようとしました。
「今日の指輪は何本ですよ。」と何度も確認したり、物盗られの発言があるときは、Bさんの名前が出る前に「貴重品は娘さんが全て管理していますから、ご自宅に行ったらちゃんとあります。安心してください。」と声をかけたり、トラブルにならないようにと対策をして気をつけていました。


しかし、ある日、とうとう恐れたことが起こってしまいました。


突然Aさんは、Bさんの席まで行き、言ってしまったのです。


Aさん「あなた!さっき私の指輪盗ったでしょ!」

Bさん「何言ってるのよ!指輪なんてどこにあるのよ!」

Aさん「さっき椅子の下に落としたのよ。それをあなたが盗ったの見たんだから!」

Bさん「何も落ちてないでしょうよ!」



Bさんは突然のことに、泣き出しそうになりながら困惑しています。
別部屋に行き、気持ちを落ち着かせてもらいます。

残されたAさんと、私たち。
予期せぬ行動にスタッフ一同驚きながらも、なんとかAさんに分かってもらおうと話します。


スタッフ
「みんなここにいて見てますから。指輪は落ちていませんから、Bさんは盗ってませんよ。」
「今日は朝デイサービスにくる時に、指輪の数を確認して来ていますから。」
「Bさんは盗ってませんから、責めないで下さいね。」



そんなスタッフの声かけに、Aさんは寂しそうにポツリとこう言いました。



「なんで私の話は誰も聞いてくれないの。」



そこで私はハッとしました。



普段から、認知症の方の世界に寄り添うことを仕事として来たはずなのに、利用者の方同士の喧嘩やトラブルに発展してしまった時、そのどちらにもフォローが必要なことをとっさに判断できなかったのです。


Bさんをかばうことに必死になりすぎて、Aさんの気持ちに寄り添うことが後回しになってしまったのです。


その後、Aさんもまた別部屋に行き、しっかりとスタッフが話を聞いて、気持ちを落ち着かせてもらいました。


このトラブルの後も、指輪を盗られたという発言は収まることはありませんでしたが、私たちは、まず、その言葉をしっかりと受け止めることにしました。そして、Aさんとたくさん話をして、今の思いをしっかり聞くことが出来るような時間を作りました。


それ以来、Bさんへの直接的な発言はありませんでした。


私たちにとって、利用者同士のトラブルというのは最も避けたいトラブルです。
トラブルを避けたいと思うばかりに、Aさんの言葉を先読みし、なるべく被害妄想の発言をさせないような対策をとってしまっていました。そして、そのことによって、Aさんにストレスを与えてしまっていたのです。


介護の世界ではよく「問題行動」と言う言葉が使われ、その問題についてどう対処するかを話し合われることがあります。

問題としてとらえる前に、行動の裏には理由があることを考えなければなりまん。

「なんで誰も私の話を聞いてくれないの?」の発言は、そのことに気づかせてくれました。
Category: 介護の現場から(事例集)
Published on: Thu,  26 2015 08:00
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