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事例154 質の高いサービスとは?

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先日、介護保険制度の勉強会に出席した際に、これからの介護サービスは「質の高いサービス=健康への取り組みにより結果を出すこと」という流れになっているという話を聞きました。
つまり、ADLが改善することや、介護度が下がることが求められている傾向にあるようです。

質の高いサービスは、身体機能の維持向上だけなのでしょうか。
“笑顔になる”、“癒される”、“安心できる” など、大切なことはきちんと評価されるのでしょうか。

つい先日のことです。
施設のおばあちゃんが、話しかけてきました。
「あのね、最近本当に忘れるの。何をやったか覚えてないのよ。この前も息子夫婦と旅行に行ったんだけど、それがどこだったのか、何をしたのか覚えてないの。辛い。ほんとに辛い。どうしたらいいんだろうか。」

この相談の少し前、Aさんは入居者の他のおばあちゃんBさんと、世間話をしていました。

Bさん
「Aさん、この間旅行に行ったんだって?どうだったの?」
Aさん
「う、うん楽しかったよ。息子たちはいつも良くしてくれるからありがたいよね。」
Bさん
「幸せだね〜、で、どこに行ったの?」
Aさん
「えっと…温泉があるとこだったかな…いろんなとこ行ったんだと思うわ。」
Bさん
「いいわね〜、ご飯もおいしいの食べたんでしょ。」
Aさん
「そ、そうね、何食べたんだっけ…ま、とにかく楽しかったわよ、うん…」
Bさん
「やだ、せっかく息子さんたちが用意してくれたんだから、ちゃんと覚えてなきゃ!まぁ、忘れるのは私も人のこと言えないけどね。」

この会話の途中、どんどんAさんの顔が曇っていくのが分かりました。
楽しかったはずの家族旅行、でも、何をやったのかを思い出すことができなかったのです。これまでなんとなく忘れっぽい程度だった記憶が、Bさんとの会話で、思った以上に記憶力がなくなっていることに、不安を抱き、私に相談してきたのでした。
「息子たちが旅行で撮った写真をもってきてくれてね。それを見て、あ、私こんなことしたんだ…って。楽しかったことは覚えているのに、どうしてやったことを思い出せないんだろう。このまま、どんどん忘れることが多くなって来たら、皆に迷惑をかけるんじゃないかとか、すごく怖いわ。ほんとに情けない。」

私は、介護記録を書いている途中でしたが、Aさんとテーブルにつき、お茶をすることにしました。Aさんは、これまで抱いてきた記憶や体力の衰えについての不安を話し続けました。15分〜20分は経ったでしょうか。


「Aさんから声をかけてきてくれたことがとても嬉しいです。Aさんの今の思いが聞けて良かったです。物忘れを解消することはできませんが、不安があったら私でよければ、いつでも声をかけてくださいね。」

Aさん
「いままでね、自分の記憶が衰えていることを信じたくなくて、わかっているふりをすることがあったんだけど、今日話をしてなんか素直になれそうな気がするわ。でも知らないうちに迷惑かけたら本当にごめんなさいね。」

特に私から何かをアドバイスしたわけでも何でもないのですが、しっかり時間をとってゆっくり話ができたことで、Aさんの不安や素直な気持ちを受け止めることができました。

施設でも在宅介護でも、日々の業務や日常生活に追われることが多いですね。
ゆっくりその人とお茶を飲みながら話す時間ってあるでしょうか?
人手が足りない、忙しい…で、しっかり高齢者に向き合うことができないような、環境が不安定なまま、身体的維持向上にばかり目が向かないようにしたいものです。

Aさんは最近「何となく体がだるい」とか「風邪気味だから…」と散歩に行くことも拒んでいました。私との話のあと、「気晴らしに散歩でもいかがですか?」と声をかけると、「行ってみようかな!」と何か月ぶりに外へ出たのでした。今思うと、気持ちの落ち込みが原因だったのかも知れません。

今後、介護保険制度で向かう方向性である、身体機能の維持向上が評価をされる、ということばかりに気を取られることなく、「運動しよう」「外に出よう」と思える前向きな気持ちを作り出せるような環境を整えられるかどうかも大切な気がしています。

質の高いサービスとは?
評価が偏らないようになってほしいものです。
Category: 介護の現場から(事例集)
Published on: Thu,  07 2017 09:58
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