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事例集009 芭蕉布と桜

デイサービスに通っていた70代の女性Yさん。

教師をしていた経験があり、「あなたはそう思うかもしれないけど私はこう思う」というように、しっかり相手を考えながらも、自分の意思を話す方でした。

正常圧水頭症で、歩行障害があり、言葉もろれつが回らないような話し方をされます。


花や絵などの美しいものが大好きで、目を輝かせてご覧になります。
散歩に出て風を感じれば「春のにおいがするわね。」など、
何とも表現が自然で、女性的な魅力あふれる方でした。

ある日、デイサービスのスタッフが沖縄三線を持ってきて弾いた時、
Yさんは、ある曲をリクエストしました。


【芭蕉布】という曲です。


海の青さに 空の青 南の風に 緑葉の
芭蕉は情けに 手を招く常夏の国 我した島沖縄


「この曲を聞いていると、心が洗われる気がするのよ。」

いつもYさんはそう言いました。
この芭蕉布の歌を、それから何度デイサービスで一緒に口づさんだことでしょう。
その度に彼女は、「いいわねー」と喜んで下さいました。


送迎時、ご家族にこのことを話すと、
「え?うちの母、そんな曲知ってるんですか?」との返事。
家族も知らないお母様の一面だったようです。


さらに、Yさんの口癖がありました。
「私が死んだら、桜の木の下に埋めてちょうだいって、娘に言うのよ。冷たいお墓より、みんなに美しいと言ってもらえる場所にいたいわ。」

自然を愛するYさんらしい言葉です。



数ヶ月後、膵臓の病で入院後にお亡くなりになりました。
娘さんは、Yさんの希望通り、樹木葬を行いました。


その後、デイサービスに挨拶に来てくれた娘さんが、話してくれました。

「デイサービスで、母は芭蕉布が好きでいつも歌っていたことを聞いて、葬儀のBGMには芭蕉布を使いました。母は好きなものに囲まれて、今とても幸せだと思います。教えて下さってありがとうございました。」


Yさんらしい人生の終わりに、少しでもご一緒できたことを今でも感謝しています。


徐々に春の気配が感じられる今日この頃。
ふと、桜はいつ頃咲くだろうかと思う時、彼女の優しい話し声や穏やかな表情を思い出します。
Category: 介護の現場から(事例集)
Published on: Thu,  26 2015 15:59
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