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事例095 小学生の孫に教わったこと



デイサービスに通っていた70代の男性Aさんの家族の話です。

Aさんは奥さんと2人暮らしでしたが、認知症の発症から物忘れが増え、外出先で道に迷ったりするようになりました。
奥様だけでの介護では難しくなり、娘さんが孫を連れてしょっちゅう顔を出すようになりました。

私がAさんのご自宅に伺った際、奥様と娘さんはこれからの暮らしについてこんな風に話してくれました。

奥様
「とにかく1人での介護はもう限界。人様に迷惑をかけるようなことはして欲しくないんです。」

娘さん
「仕事で家庭を顧みない父でしたから、仕事辞めてまで母に辛い思いをさせるのかと憎む気持ちの方が大きいです。家庭を顧みないのに、教育にはやたら厳しくて、よく叱られて叩かれたりもしました。結婚する時も、私の旦那のことは気に入らなかったみたいで、口をききませんでしたし、今父に対して、可哀想とかいう感情はありません。とにかく母が身体を壊さないようにと思っています。」

とくに娘さんの言葉からAさんへの心理的距離を感じました。

奥様と娘さんは、Aさんの認知症の症状がどうなっていくのかをいつも気に病んでいて、認知症の事例の本などをよく買って読んでいました。
本を読んでは、これから出現するかもしれない様々な症状を気にし、読めば読むほど心配の深みにはまっているようでした。

例えば…
万引きをするかもしれないから、スーパーに連れて行くのはやめよう。
失禁するかもしれないから、紙パンツにしよう。
弄便(ろうべん…便をいじる行為)するかもしれないから、部屋の中に置いていたものを片付けてしまおう。

そして、そのことが症状の悪化に拍車をかけていました。
外出できない、紙パンツの履き心地は悪い、見慣れた部屋の風景が変わっていく。
Aさんは混乱し「分からない分からない」と繰り返し、ほとんどの生活動作が自分一人ではできなくなりました。
時には奥様を突き飛ばしたり、ものを壊したりするようになりました。

娘さんは以前からAさんと折り合いが悪かっただけに、さらに憎しみを抱くようになり、「なんでわかんないのよ!お母さんを困らせないで!」とケンカするようになりました。

私達も、デイサービスのスタッフとして最大限話を聞いてアドバイスをしたり、 症状への対応方法を伝えました。
しかし、「一緒に暮らしていないから分からないわよ…」と、あまり受け入れてもらえませんでした。

そんな中、Aさんが唯一笑顔を見せるのは小学校低学年のお孫さんと話している時だったそうです。

奥様と娘さん、どちらも介護の限界を超えていたある日、お孫さんが言ったこんな言葉が二人の意識を変えたそうです。



奥様 「どうやったらトイレの仕方を分かってもらえるだろうか。どうして言った通りにやってくれないんだろうか。」

娘さん 「お父さんはお母さんに甘えてるのよ。もっと強く言い聞かせればいいのよ。」

孫 「そうかな。分からないものは分からないでいいんじゃないの?だってそういう病気でしょう?」



奥様はその時のことを私にこう話してくれました。

「孫に言われたことで、張り詰めていたものが解けたような気がしました。主人が孫と話している時に笑顔になれるのは、ただ孫だから、子供だからってだけじゃなくて、分からないことを素直に受け入れていたからなんじゃないかと思ったんです。」


娘さんは、

「子供が一番病気について理解していたみたいです。父とはいろいろあったので、変な感情が入ってしまって。今更優しくすることはできないけど、父の病気にきちんと向き合ってみたいと思います。それが、きっと母のためになると思ってます。」


家族を介護するということは、複雑な感情やこれまでの経緯など、様々な要因が混ざり合い難しいものです。
Aさんの家族は、お孫さんも一緒に関わっていることで、介護のヒントが見出せました。

認知症の方が笑顔でいられる時、心穏やかでいられる時、どんな人がどのように関わっているのかを参考にすると、自分が気がつくことが出来なかった介護のヒントが見えてくるかもしれませんね。
Category: 介護の現場から(事例集)
Published on: Thu,  20 2016 08:00
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