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事例083 会話から見つけるヒント


デイサービスで勤務していた時の話です。

70代の認知症の男性利用者Aさんがいました。
利用を開始した頃はデイサービスに馴染めず、「なぜここに来ることになったのか。」「何をして過ごせば良いのか。」とスタッフに尋ねたり、行きたくないと休みがちになることもありました。
私たちも趣味や役割を見つけることが出来ずに悩んでいました。

そんなある日、Aさんと話をしていたスタッフが、こんな提案を出してきました。
「Aさんと若い頃の仕事の話をしていたら、昔はワープロやパソコンを良く操作していたという話になったんです。今はもう忘れちゃったかもな、って言うから、触ってみませんか?って声を掛けたら、出来るかな?ってちょっと興味を持ってくれました。Aさんにパソコン教室を開いたらどうでしょうか?」

「出来るかな?」のほんの少しの興味に掛けて、次の利用日には、スタッフの家で使わなくなったノートパソコンを用意しAさんに触ってもらうことにしました。すると、「久しぶりだなぁ」といいながら「次の文字を打つにはどうしたらいいの?」と意欲的になってくれました。
最初は、名前を打つところから。キーボードをじーっと見つめながら、15分はかかりました。

すると、Aさんから「何か文章を打ってみたい。」と希望があり、今度は新聞の記事を打ち込んでもらうことにしました。
私たちが読み上げた文をゆっくりと一文字一文字キーボードの文字を探しながら打っていきます。
ものすごい集中力で、あっという間に時間が過ぎたようで、その日は「何をして過ごせば良いのか」という質問は一つも出ることなく、無事にデイサービスを利用しました。

次の利用日、ご自宅へ迎えにいくと、奥様から驚きの言葉を聞きました。
「最近、珍しく本屋に行きたいというので、何を探すのかと思ったら、“パソコン入門 文字入力の基本”という本を手に取り、これが欲しいんだって。デイサービスで、パソコンをやることになったからって言うんですよ。主人が何かをやりたいって言うことなんて最近は滅多になかったから、凄く嬉しくて!」
私たちも、興味を持ってもらえることを見つけることが出来て、本当に嬉しかったです。

しばらく続けていると、文字入力もスムーズになり、Aさんにデイサービスで育てている植物の生育日記を付けてもらうことにしました。日付け、天気、気温、生育具合を記録していきます。


数日たったある日、その日は雨上がりで何となく靄のかかったような日でした。
いつものように、中庭の植物の生育具合を観察し、パソコンに向かったAさんが、何かを悩んでいるようにしばらく手が動かなくなってしまったのです。

スタッフがかわるがわる「今日は進みませんね」「日付から打ってみましょうか?」「今日は難しそうだったら無理しなくて良いですよ」と、いろいろ声を掛けますが、まったく聞く耳持たず。
パソコンの前でじーっとしています。
今日はきっと調子がわるいんだな。スタッフ一同そう思っていました。

30分は経ったでしょうか。
やっと手が動いたと思ったら、何かを書き始めました。
『朝靄に 浮かぶ緑の中庭の…』

そこまでを見てやっと理解が出来ました。
Aさんは調子が悪くて、手が動かなかったのではなく、俳句を考えていたんだ!
それが分かった瞬間、とても感動しました。

日記に俳句を付け加えるという、Aさんのオリジナルの生育日記になっていきました。

「なぜここに来ることになったのか。」「何をして過ごせば良いのか。」とデイサービスに馴染めずにいた頃が嘘のように、パソコンに向かうことがきっかけで、デイサービスで安心して過ごして頂けるようになったのでした。

スタッフがAさんとの会話の中からヒントを見つけ、それに着目していなければ、このようにはなっていなかったように思います。
何気ない会話の中に、生きるヒントがあることって意外と多いと思います。


私たちが誰かにプレゼントを贈るとき、人柄や日常の会話や行動から、その人の好みであろうものを想像し選ぶような感覚で、思いやりを持って接していると、きっとどこかに隠れているヒントを見つけ出すことが出来る気がしています。
Category: 介護の現場から(事例集)
Published on: Thu,  28 2016 08:00
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