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事例080 忘れられない想い出



グループホームで、入居者の皆さんと歌を歌っていた時のこと。
昭和の懐メロに “憧れのハワイ航路” という歌があり、皆で口ずさんでいました。

するとある80代のおばあちゃんが「あなたハワイに行ったことある?」
と話を切り出しました。
どうやら、おばあちゃんにはハワイでの忘れられない想い出があるようでした。

子供を三人育てたおばあちゃん。
息子さん達は家庭を持ち、娘さんはお嫁に行きました。

その頃は二人とも60代を過ぎていて “肩の荷が下りたな” そう思って過ごしていたある日、ご主人がこんなことを言ってくれたのだそうです。

「二人で海外旅行にでも言ってみないか。」
思いがけない言葉だったそうですが、嬉しくてすぐに「行く」と返事をしました。


初めてのハワイ。
観光客が多く、英語の心配はいらなかったこと。
何をするにもチップが必要だったこと。
暑いのに湿気がなくカラッとしていたこと。
海や夕日がとにかく綺麗だったこと。

色んな思い出をイキイキと話してくれました。
しかし、一番の想い出はもっと違うことだったそうです、それは…


二人で観光地を巡りながら歩いていた時のこと。
ご主人が突然こんなことを言ったそうです。

「久しぶりに手でも繋ごうか。」
手をつなぐなんて、子供が生まれてから何十年としたこともなかったから、びっくりするやら恥ずかしいやらだったけれど、本当に嬉しかった、とおばあちゃんは、はにかみながら教えてくれました。

久しぶりに手をつないで歩いたハワイ。
「また、行こうね。」
そう話した数年後に、ご主人は病気で亡くなりました。

「約束したのに、一人で急いで逝っちゃってさ、あのオヤジ。」
と怒ったフリをして見せ、周囲の人を笑わせてくれましたが、ちょっと寂しそうに見えました。


最近、夏も間近になって来て、海や夏休みの話をすることが多くなりました。
その度に、おばあちゃんはハワイでのご主人との想い出を話してくれます。

シナリオでもあるのではないかというくらい、いつも同じストーリーで。

その度に私は、おばあちゃんの80年以上の人生のうちで、とっても印象に残っている出来事の一つなんだろうな…と思いながら、私がおばあちゃんになって、何度も繰り返し人に伝えたくなるような想い出ってどんなことだろう、と自分に置き換えながら聞いているのでした。


おばあちゃんの話は、何十回聞いても幸せな気持ちになれます。
なぜなら、それを話しているおばあちゃんの顔がとっても幸せそうだからです。
Category: 介護の現場から(事例集)
Published on: Thu,  07 2016 08:00
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