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事例074 退院後の安心を考える


皆さんは、療養病床という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
療養病床とは、病院において手術や治療後、長期にわたり療養を必要とする患者のための病床です。

近年、医学的には入院の必要がなく、在宅での療養が可能であるにもかかわらず、
ケアの担い手がいないなど家庭の事情や引き取り拒否により、療養病床にて病院で生活をしている状態の「社会的入院」問題が増えており、療養病床の削減、廃止のための具体案が検討されています。


ここで、あるおばぁちゃんとその娘さんの話をします。

おばあちゃんは100歳。娘さんは75歳です。
グループホームに入院していましたが、肺炎で入院しました。

治療後、症状はおさまりましたが、食事を口から摂取することが難しくなったため、経管栄養となりました。
経管栄養では、入所していたグループホームでは対応出来ないため、そのまま入院した病院の療養病床(4人部屋)に移りました。

ある日、面会に伺うとご家族(娘さんとお孫さん)に会うことが出来、今の想いを聞くことが出来ました。


娘さんの話、
「なんだか可哀想と思ってしまうこともあってね。
口から水分も取らないから、口が乾くみたいなの。
先生は水をティッシュに含ませて、唇を湿らせるくらいはいいって言ったのに、
看護婦さんは医師から指示を受けていないからダメだって言うのよ。
私たちも、勝手なこと出来ないし。
食事だって少しづつ慣れていったら、口から食べれるかもしれないけど、
手術後食べて様子を見たら、下痢をしてしまって、服や布団をかなり汚してしまったの。
それから、口から食べることはやめましょう、ってことになったし。
それに両手にはめたられたミトン。
これをしないと点滴の管は抜いちゃうし、あちこち触るから、ミトンは外してもらえないの。
痒いところもかけないわよね。」

さみしそうな表情をしながら、ベッドで横になり目を閉じているおばあちゃんをしばらく見つめます。
そして、ふと向かいの空きベッドを見ながらこう言いました。

「こんな状態だし、周りのベッドで退院していく人たちを見て、
うちのおばあちゃんも退院させた方がいいのかなって、気持ちが揺らぐ時があったわよ。
でも、今から受け入れてもらえる施設を探すっていっても、
探す労力や手続きを考えると、おばあちゃんが100歳を越えた今、なんだか違う気がするしね。
もし私が家で看ることが出来たら…と思ったりもしたけど、私はこのばあちゃんの子よ、75も過ぎて私が介護して欲しいくらいよ。
おばあちゃんの身体を拭いたり、下の世話や洗濯、365日24時間の介護、家を空けられなくなる、色々考えたら到底無理なのよね。色々思うことはあって、気持ちが押しつぶされそうになるけど、安心を考えるとここにいてもらう方が幸せなんじゃないかと思ってるわ。
布団のシーツや掛け布団や枕カバーも自宅にいるよりこまめに変えてもらっていて清潔で、体調に何かあったらすぐに対処してもらえるんだもの。」

おばあちゃんは入院後、何度も“ヤマ”を乗り越えていて、家族はその度にいつなるかわからない電話をそばに置いて、浅い眠りを繰り返す日々。
そんな調子でもうすぐ4ヶ月になる入院生活。
自宅と病院を行ったり来たりの毎日に、娘さんの顔には少し疲れも見えていましたが、それでもやっぱり病院にいてもらった方が安心といいます。

そんな話をしていると、目を覚ましたおばぁちゃんが一言「なぁに、あんたらの方が立派だよ〜。私は可愛らしいだけ。ハハハ〜!」と、なんとも言えない言葉で場を和ませてくれたのでした。
おばあちゃんの一言。これはどういう心情からの言葉だったのかは分かりませんが、自分のことを考えてくれていることへの感謝の言葉にも聞こえました。

「あなたのこと話してんのよ!あなたは可愛いわよ!」と、娘さんはおばあちゃんのほっぺをつんつんとすると、おばあちゃんはにっこりと笑って返しました。


例えば、療養病床が廃止されてしまったら、おばあちゃんはどこへ行くことになるのか、家族の不安や負担はどのくらい増えるかを考えると、今の場所があって良かったなと思えます。

社会的に、療養病床の削減、廃止の具体案が検討されている中で、療養病床と同じくらいの“安心”が確保される場所作りや、制度作りが進められることを期待しています。

Category: 介護の現場から(事例集)
Published on: Thu,  26 2016 08:00
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