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事例073 日本ならではのことを知ってほしい


有料ホームで働く友人から聞いた話です。

“介護現場は人手不足”と世間で言われていますが、その友人の施設でも離職者が多く、スタッフが定着せずにコロコロ替わっているそうです。慢性的に人手が足りない状況なので夜勤の数が増えたり、休暇も自由に取れない状況。そんな中、会社はある対策に出たのだそうです。

外国の方の雇用です。
会社としては、今後外国人労働者の受け入れを考えるための、あくまでもテストケースということで、
まずは、研修生として中国の方を受け入れたのだそうです。

友人がその中国からの研修生を指導することになりました。
勤務態度は非常に真面目で、仕事も一生懸命覚えようとし、とても好印象だったそうです。
言葉はもちろんペラペラではないけれど、日常的な会話には支障なく、介護の専門用語もしっかり勉強してきているので問題はありません。


昔、海外での仕事をしていた入居者のおじいちゃんは、知っている中国語を自慢げに話したり、
戦争経験のあるおじいちゃんは、満州にいたことがある、といって昔話をするなど、とても良いコミュニケーションが取れていた
そうです。


ただ、こんなこともあったようです。

ある日、歩行にふらつきのあるおばあちゃんが、トイレに行きたいと言ったので、研修生がその方の手を引いてトイレへ連れて行きました。
あとは自分でできる方なので、トイレの外で用を足し終わるのを待っていたそうです。

すると、おばあちゃんが申し訳なさそうにトイレのドアを少しだけ開けてこう言いました。
「ちょっと、すみません。粗相してしまったんです。」

この『粗相』という言葉。
日本人には耳慣れた言葉です。
トイレに入った人に「粗相してしまった」と言われたら、事態はすぐに飲み込めます。
間に合わなくて便器の外にしてしまったか、下着に付着してしまったか。
「下着の替えをお持ちした方がいいですか?」と声をかければ、次に私たちが何をすればいいかがわかります。


しかし、研修生はこの言葉が理解出来なかったため、おばあちゃんはその状態を具体的に言葉で説明するか、実際の状況を見せるしかなかったと言います。

後でおばあちゃんが、友人にこう話したそうです。
「あの時ね、粗相しちゃって_…って言っても伝わらなくて、便器に座るのが間に合わなくて下着に漏らしてしまったの、わるいんだけど下着の替え持ってきてくれない?って言わなきゃ分かってくれなかったんだよ。なんだか、申し訳ないやら恥ずかしいやらでさ。別に、外国の人がダメだって言ってるわけじゃないんだけど、ちょっとしたことが伝わらないと困るときもあるのよね。これから外国の人が増えて行くのかしら…なんとなく不安だわ。」


日本語は非常に難しい言語の一つと言われます。
同じ意味でも違う言い回しがあったりします。
今回のことも「漏らす」と言うか「粗相をする」と言うか、「失敗する」という言い方もありますね。

他にも、特に高齢者の場合、同じ日本人でも若者は知らない言葉があったりもします。
昔使われていた言葉です。

例えば「トイレ」の表現。
「お手洗い」「便所」「化粧室」「洗面所」「厠(かわや)」「用所(ようじょ)」「御不浄(ごふじょう)」…
「トイレ」を表す言葉はこんなにあります。「トイレ」と言っても伝わらない場合は、他の言い方で言い換えられるようにしておかなくてはいけないのです。


さらには、言葉の語尾に使うニュアンス言葉など日本独特の使い方や、また地方に行くと方言などでまったく違う言葉になったりもします。こういう点も日本語の難しさではないかと思います。


友人はこう話します。

「介護の仕事は、高齢の方々の生活のお手伝いです。
歴史を知り、日本の高齢者が生きてきた時代に思いを馳せ、一人一人の生き方を知ることも必要です。そして、言葉やその裏にある心情を理解して、身体的・精神的なケアをできるかどうか、さらには、介護を受ける本人だけでなく、複雑な家族の心情をに寄り添う必要があることもあります。
外国の方の雇用について賛否両論あるけれど、志高く仕事を学んでくれている研修生は大切にしたい。
そのためには、仕事の内容も大事だけど、日本語の難しい部分や表現もしっかり理解してもらえるように、”日本のこと”を伝えなきゃいけないと思っています。」


介護における外国人労働者の仕事は、これからは入居施設だけでなく、訪問介護にも働きの場が広がるようです。
利用者の自宅に上がって仕事をすることになるのです。
外国人労働者の活躍の場が広がりを見せているからこそ、受け入れる側がしっかりこの仕事にプライドを持ち、様々な視点から“日本のこと”を伝えられることが大切になっていく気がしています。


Category: 介護の現場から(事例集)
Published on: Thu,  19 2016 08:00
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