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事例集006 ブランデーグラス

デイサービスに通っていた前頭側頭葉型認知症の男性Mさん。
前頭側頭葉型認知症とは、記憶障害よりも性格の変容や社会性の消失がみられることが多い病です。

ご自宅で奥様と2人暮らしでしたが、定年後、認知症状が進み、奥様の姿がお風呂やトイレで見えないだけで、不安で「おい!おい!」と探して歩くようになり、奥様の介護負担軽減のためにデイサービスに通うことになりました。


送迎に伺うと、奥様の顔面がアザになっていることもありました。
前日の夜、入浴させようとしたらパンチをもらったと。
意にそぐわないことや、嫌なことがあるとすぐに暴言暴力に変わってしまうようになりました。

なんとかデイサービスで穏やかに過ごしていただきたいと思い、
ご自宅で使っているクッションや湯のみなどを持ってきていただき、
使ってはみましたが残念ながら効果はなく。
施設内をぐるぐると歩き回り、食事や水分、入浴することも困難な状況でした。

女性スタッフには比較的穏やかに話しますが、男性スタッフには非常に厳しい口調で応答します。
特に、若い男性スタッフには厳しかったのです。
しかしながら、年配の男性スタッフが話しかけると、
まるで会社の仲間と話しているような口調でご機嫌良く話をするときがありました。

Mさんは、人数の多いところや雑音の多いところにいると落ち着かないことが多かったことから、デイサービスのフロアではなく、少し離れた部屋で、スタッフと一対一でいることが日常でした。

食事を一緒にとるため座っていて、私がよそ見して目が離れると、強烈なパンチが飛んできました。
入浴しようと脱衣する際は、折れるぐらいに腕をつかまれました。
「ばかやろーーーーー!」と何度言われたか分かりません。



そんなMさんですが、たまたまかけたCDの歌に涙を流す瞬間がありました。
それは、石原裕次郎の『ブランデーグラス』です。

若い頃よく聴いた歌なのでしょうか。
椅子にきちんと座り、目を閉じて聞いています。
そしてトレードマークのハンチング帽で顔を隠すようにして涙を流し歌うのです。

時々「俺は…こんなになってしまって…」と、声を震わせ、自分と向き合う瞬間がありました。

若い人には厳しく、年の近い人とはまるで現役時代のように会話をする。
若い頃に流行った歌が流れると懐かしみ、涙を流す。
Mさんの心はいつも現役時代にいるのだと感じました。

Mさんの吐く厳しい言葉や、手が出てしまう行動には、彼の悔しさや悲しみが詰まっているような気持ちになりました。

このことがあって以来、スタッフのケア行動にも変化がありました。
普段は女性スタッフが対応する。
同じスタッフが長時間接しているとイライラしてくるので、時間で交代する。
歩き疲れた頃には、時々年配の男性が話かける。
若いスタッフは、Mさんに教えをもらうような姿勢で話しかける。
歌を聴いている間や後には、マッサージをしたりして気持ちを穏やかに過ごしていただく。

徐々に、一人一人が自分の役割を考え、自然と行動するようになっていきました。


症状が改善することはありませんでしたが、少しでも感情が爆発することなく過ごしていただけるよう、彼の世界に寄り添えるよう、チームが一丸となってMさんと向き合うことが出来るようになったのはまちがいありません。

『ブランデーグラス』が、Mさんが胸のうちに抱えていた本音に気づかせてくれました。
Category: 介護の現場から(事例集)
Published on: Thu,  05 2015 08:00
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