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事例071 ご主人を支える奥様の想い


デイサービスに通うご主人を介護する奥様の話です。

夫婦はともに80代。

ご主人は認知症の為、日常生活動作に介護が必要な状態です。
奥様は、入浴介助などが大変と話していましたが、なぜかヘルパーさんや訪問入浴を入れることは断固拒否していました。
デイサービスも、最初は通わせたくないと、断っていました。

しかし、ケアマネージャーから、外へ出て人と交流することで症状を和らげることも必要との助言で、週二回、ご主人をデイサービスに通わせることにしました。


デイサービスに来る時のご主人の服装や持ち物はいつもきっちりしていて、入浴用の着替などは、いつ見ても同じ順番に重ねられていて、下着までしわ一つありません。
カバンの中身は、ポケットの数だけ入れておくものがいつも一緒で、何かが増えたり減ったりすることもありません。

奥様はとっても几帳面な方でした。

スタッフに渡すものがある時は、奥様がご主人の後ろから「こう言って渡してくださいよ。」とこっそり耳打ちで助け舟を出し、ご主人がきちんと渡せるようにしたり、デイサービスにご主人を送り出す時は、車が見えなくなるまで深くお辞儀をしてくれました。

家事仕事に対して几帳面なことや、自分が一歩下がってご主人を立てるように振る舞われることから、
何十年と歩んで来た二人の生活に他人が入り込んでほしくない、と思うのも何となく分かるような気がしました。


デイサービスにご主人が通い始めて数年経って、認知症の症状が少し進んできました。
奥様も「最近自宅での介護で大変なことが増えた」、と話していた為、こんな提案をしてみました。

「デイサービスに通うことも慣れていらっしゃることですし、週の利用回数を増やしてみてはいかがですか?」
すると、奥様から驚きの返事が返ってきました。

「本人にとってはいいかもしれないのですが、回数を増やされたら、私が大変なんです。」

自宅での介護が大変と話していたのに、不思議な返事でした。
良く話を聞くと、こういうことでした。

奥様は、夕方ご主人がデイサービスから帰った後、まずは二人で夕飯を済ませます。
その後、ご本人が寝てしまったあと、デイサービスに持っていったカバンの中身を全て取り出し、綺麗にします。

入浴で着替えた洗濯物はその日のうちに、色別にわけ、何度かに分けて洗濯します。
洗濯が終わったら脱水後の濡れたままの洗濯物を、シワを伸ばすようにして一旦たたみ重ねます。

そして数時間放置。さらに重ねた洗濯物の上下を逆さまにしてまた数時間放置。

それから普通に物干しに干します。
このような行程で洗濯を干すと、パンパンたたいて干さなくても、シワがつきにくくなるのだそうです。


そして、次回持っていくカバンには所定のポケットにハンカチちり紙、愛用のクシに、カミソリを用意します。着替え入れのビニール袋も、綺麗にたたんで三角折りにして入っています。
着替えやタオルはシワひとつなくたたまれて、いつもと同じ順番に重ねて、綺麗な風呂敷に包んでからカバンの中へ。

そんなふうにしていると、デイサービス日は、片付けと準備だけで、いつも寝る時間は夜中の2時〜3時になるのだそうです。
朝は5時過ぎには起きて朝食の支度をするので、寝不足になるというのです。

週二回のデイサービスが回数が増えたら、自分の身が持たなくなる。
そういう理由だったのです。


旦那さんを支えるのは妻の勤めというように、家事仕事も雑にこなすことなく、本当にきっちりやって来たのだと思います。
人前に出すならきちんとして主人を送り出したい、という意識が、そうさせているのだと感じました。


介護の仕事は、介護を受ける本人の想いを受け止めて支援していくことが重要ですが、それと同じくらいに、一緒に暮らす家族が今までどのような暮らしをして来たのか、本人に対してどのように思っているのかを知ることが大切です。

このご夫婦の場合、共に暮らす奥様の気持ちを知ることによって、単にご主人の為に利用回数を増やす前に、まずは奥様へのアプローチが必要なことが見えてきました。
ご主人を支える為にやって来たことや、その気持ちを受け入れながらも、変わっていく認知症の症状や、それにあわせた生活環境に少しづつ適応させていかなければならないことを、ゆっくりと話し合いながら決めていくことにしました。


長年連れ添った夫婦の間には、当たり前にやって来た習慣や、二人にしか分からない想いがあります。
介護の現場で働く私たちにとって、そんなご本人たちの想いを大切に受け止める必要があるのです。
Category: 介護の現場から(事例集)
Published on: Thu,  05 2016 08:00
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