介護デザインプロジェクト

このブログでは、
介護の現場エピソードや、現在の社会問題について情報を発信していきます。

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事例035 やりたいを叶えるための準備

私の勤務していたデイサービスは複合型で、有料老人ホームに併設の施設でした。
一階にデイサービスがあり、その上が有料老人ホームです。

ある日のデイサービス。
中庭の見える和室でいつものように昼食をとっていると、身体のお元気な男性のご利用者が
「中庭、随分雑草が生えてきたね。午後少し草取りでもしようか!」
と、ご自分から率先して言ってくださいました。

日差しが照らない日だったので外に出るにはもってこいの天候。
昼食の片付けを終えてから、お言葉に甘えて草取りを開始しました。

男性のご利用者2名と私、軍手に鎌を持ち、夢中で草取りをしているとどこからか女性の声が聞こえてきました。

「すいませーーーん!すいませーーーん!」

声の方を見上げると、2階の有料老人ホームに入居されているおばあちゃんでした。

(ん?顔は見たことあるけど、何さんだろう?)
私はデイサービスでしか勤務していないので、2階のおばあちゃんの事は詳しくわかりません。


「こんにちは!どうされましたか?」と声をかけると、

「ご苦労様!草取り、私にも手伝わせていただけないでしょうか!?」と、おばあちゃん。

(え!?どうしよう…。お元気そうに見えるし、手伝ってもらってもいいんだけど、もし、転倒に注意しなくてはいけない方だったら、何か事故でもあったら…)


いろんなことを考えて、おばあちゃんには少し待っていていただき、内線で有料老人ホームの担当者に確認することに。


「今、デイサービスで中庭の草取りをしていたら、デイサービスの和室の真上に入居されているおばあちゃんが、草とりに参加したいって窓から声をかけてくださったんですが、いかがですか?」

有料ホーム担当者
「あ〜きっとTさんですね。Tさんには問題ないんですけど、今日は職員の数が足りなくて、見守りで付くスタッフがいないんですよ〜。ちょっと無理ですね。Tさんにはこちらから説明しておきますから…。」


「あのー。もし危険がないのでしたら、私も一緒に草取りやってますし、せっかく声をかけてくれたので、少しだけでもどうですか?」

有料ホーム担当者
「いや、何かあったら困りますから…。買い物には一緒に行ったりしますけど、今回みたいなことは初めてですし。」


「そうですか。もし職員さんの手が空いたら、ぜひ一緒にやりたいですね。」


と、結局おばあちゃんが参加することはありませんでした。
このおばあちゃんが、草取りをやっている私たちに興味を持って、参加したい!と意思表示をしてくれたことが嬉しかった反面、おばあちゃんの希望を叶えてあげられなかったことが残念でした。


施設では、行事やレクリエーションを行う際に、その行動にはどんなリスクが含まれているのか予測して、万が一の時の対処を準備してから行動するようにしています。

ご利用者の行動に、ご家族の許可が必要な場合もあります。
それも事業所によって、許可を取るべき家族とのコミュニケーションのとりやすさも違います。

入居の施設となると、契約時、事故報告、体調不良、イベント告知などの際に、連絡を取るようになります。
デイサービスなら、ほとんどの場合が利用時の送迎などで毎回ご家族の誰かしらにお会いでき、その日にあったことや、細かなことをお話しをする機会があります。
報告の内容や密度が変わってきますね。


このことを機に、デイサービスのスタッフも、有料老人ホームに入居されている方のことを気にして、こまめに情報収集するようになりましたし、いろんな場面に備えて両施設のスタッフ同士がどうコミュニケーションをとって対処するべきなのか、ご家族に確認しておくべきことはなんなのかを考えるようになりました。

リスクマネジメントしながらも、ご利用者の“これがしたい!”という希望を、私たちの都合だけで失ってしまわないように、施設・職員全体で考えるきっかけになりました。

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事例034 小子内さん最近見ないね

先日、地域の盆踊り会場にいた私に、声をかけてくれた人がいました。
私が1年前以上前に辞めた、デイサービスの仲間です。

久しぶりに会ったので、利用者さんやスタッフのことをいろいろ話していた時に、その人が教えてくれました。

お元気だったTさんは認知症が進行して…
毎日のように通っていたMさんはグループホームへ入居したんです…
一番高齢だったIさんは、暑さに倒れて…

そっか…一年経つと、お変わりない方は少なく、少し残念な話ばかりだな…
と、思いながら聞いていましたが、一つだけ嬉しいことがありました。

「若年性認知症のSさんは、より一層短期記憶が失われていっているんだけど、未だに小子内さんの名前を言うんですよ。」

Sさんは60代前半で認知症の診断を受けました。
同じものをいくつも買い込んで冷蔵庫をいっぱいにしたり。
汚れた下着をタンスに隠して忘れてしまったり。
電車で出かけて迷子になったり。

家族も同居していますが、会社勤めのため日中はほとんど家におらず、心配になった家族の意向でデイサービスに通うことになりました。

お若いですし身体もお元気で、買い物や料理などの手伝いもテキパキ動いてくれます。

そんな元気なSさんも、デイサービスで入浴中に私と二人きりになった際には、自分のこれからについての不安や、どうしてこんなになっちゃったのだろう…と落ち込むことがありましたし、一緒に住む家族とうまくコミュニケーションが取れないことを悩んで話してくれたこともありました。

真剣にSさんの話を受け止めました。

明るいSさんは、話の最後には必ず、
「でもさ!くよくよしても仕方ないわよね!話を聞いてもらってすっきりした。ここにきて、スタッフの皆さんと話したりしてるのが一番よ!ここに来て良かった。家族に感謝しなきゃ!」
と締めくくるのでした。

月日が経つと、より一層短期記憶が失われ、私が会社を辞める頃には話相手が相槌をうっている間に、ご自分が何を話していたのかわからなくなってしまうくらいに記憶を忘れるスピードが速くなっていました。

私が辞めたら、すぐに名前なんて忘れてしまうだろう…そう思っていたのです。

しかし、1年以上経った今も、「あれ?小子内さん最近見ないわね!」
と話しているのだそうです。その度に、「小子内さんは辞めたんですよ。」とスタッフは1年以上繰り返し話しているそうで。

覚えていてくれて素直に嬉しいのと、昔の記憶でなくても、認知症になってからの体験で新しい記憶でも、保たれる記憶があること。それを教えてくれました。

今度、そのデイサービスに遊びに行く予定があり、Sさんや利用者の皆さんに会うのが今から楽しみです。
覚えていてくれても、そうでなくても、会いたい、話したい、ただそれだけです。

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事例033 おばあちゃんの言葉

私の勤務していたデイサービスでは、近隣の小学校の学童クラブの生徒との交流会を行っていました。

小学生がデイサービスを訪れて、お年寄りの皆さんと折り紙をしたり、工作をしたり、反対にデイサービスで学童クラブを訪れて、お年寄りの皆さんが生徒たちから様々な質問を受けたり、お互いの場所を行き来していました。

デイサービスで学童クラブを訪れたある日のこと。

デイサービスから5人のおじいちゃんおばあちゃんが伺いました。そのうちの最年長は90歳で、車いすですが、お話が好きでとっても威勢のいい、江戸っ子のおばあちゃんAさんでした。

その学童クラブでは、小学1年生から3年生の生徒たちが放課後を過ごしています。
学童クラブに入っていくと、たくさんの子供たちでフロアがいっぱいです。
それはそれは賑やかで、おじいちゃんおばあちゃんたちは「ずいぶん元気だねー!」と圧倒されています。

さて、交流会の始まりです。
学童クラブの先生が「みんな静かに!おじいちゃんおばあちゃんに挨拶して下さい!」
というと、いつもと違った行事にテンションが上がった子供たちは、割れんばかりの声で
「こんにちはーーー!!!」と挨拶してくれます。

早速質問コーナー。事前におじいちゃんおばあちゃんに聞きたいことを考えていたようで、
先生が「質問ある人!」と言うと、「はい!はい!はい!はい!…」と、たくさんの生徒たちが手を挙げ、おさまりが効きません。
なんとか先生が、「みんなもう少し静かに!○○ちゃん!」と、当てます。
次の質問でも同じように、子供たちが割れんばかりの声で先生にアピールし、先生もタジタジです。
最初は「元気だわね。」と笑顔で見ていたおじいちゃんおばあちゃんも、「先生も大変だわ。」と、苦笑い。

先生が「みなさん、おじいちゃんおばちゃんたちが来てくれているのだからもう少し静かにしましょう!十分聞こえていますよ。」と、子供たちをなだめますが、少し経つとすぐにまたうるさくなります。先生も声を張り上げて、叱っていたその時です。


それまで黙ってみていた90歳のおばあちゃんが突然!

「こら!あんたたち!!!」
と、大きな声で話しだしました。

突然のことにスタッフの私たちも、学童クラブの先生も、今まで散々騒いでいた子供たちもあっけにとられて、Aさんに注目します。


そこに続けてAさん。

「あんたたちは子供なんだから、元気いっぱいで結構!ただね、世の中には【けじめ】って言う言葉があるんだよ。知ってるかい?騒いでいい時は思い切り騒ぐ。でも、お客さんが来たりきちんとしなきゃ行けない時は、静かに人の話を聞くもんなんだよ。特に、先生の言うことはしっかり聞かなきゃダメ。学校ってのはそう言うもの。【けじめ】をつけて、過ごさないと行けないよ!分かったかい!」


自然と子供たちから「はーい。」という返事が聞こえます。
それから、子供たちはあっという間に静かになって、先生の言うことを聞いていました。

無事に、その日は交流会を終了しました。
子供たちのことだから、今回のことも忘れてまた賑やかに先生を困らせているのだろうと思っていましたが、意外な反応がありました。


しばらくしてからの、学童クラブの先生のお話です。

「あのことがあって以来、子供たちの学童での過ごし方が変わりました。良く話を聞いてくれるようになりましたし、少しうるさくなっても、おばあちゃんは皆さんに何と言っていましたか?と聞くと、すぐに子供たちから【けじめ】!と、反応があるんです。あれから、この学童のテーマが【けじめ】になりました。あの時、おばあちゃんに教えてもらったことが、子供たちの印象にとっても残ったようです。ありがとうございました。」


最近の社会は、人の子供を注意することや親以外の人から注意されることが少なくなっています。
しかし、Aさんが生きて来た時代には、当たり前にあった風景だったのではないでしょうか。

学童クラブの子供たちにとってはもちろん、先生や私たちにとっても得るものがある、世代を超えた交流がそこにありました。

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事例032 Shall we dance.

変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)があり、杖をついて歩くのもやっとの、おばあちゃん。
90歳で認知症がありますが、県営住宅で一人暮らしをしています。

物がないとか膝が痛いとか、離れて住む娘に1日何度も電話をかけます。
外に一人で出れば、自分の家がわからなくなり、他のうちの玄関に入り込んでしまいます。
真夏でも、下着を何枚も着込み、毛糸のセーターを来ていたりします。

日中だけでも安心出来る場所で過ごさせたいと、家族の意向で、デイサービスに通うようになりました。

変形性膝関節症とは、膝の関節軟骨がすり減り、膝を曲げ伸ばしする動作に痛みが生じるようになり、重度化すると骨そのものが変形したりし、安静にしていても痛みが生じ、日常生活にも支障が生じる病気です。


このおばあちゃん、デイサービスのお迎えでは「膝が痛いから行きたくない」が朝の挨拶代わりで、なんとか話を聞いたり、「車で行くから、エレベーターに乗るまで頑張りましょう!」と励ましながら、家を出るのに毎日30分以上はかかります。

一歩踏み出すたびに「いでででで…」「なんでこんな思いをさせるのよぉ〜!」「やっぱり行くのやめようかな…」と言います。

デイサービスにやっとのことで到着してもお風呂は面倒くさい、風呂場まで行くのも辛い、体操もめんどくさい、膝が痛いから出来ない…とほとんどしません。


そんな、おばあちゃんですが。

ある日、施設の夏祭りの練習で、盆踊りの男性の先生がデイサービスに来た時のことです。

盆踊りなんてやらないわよ!
そんなことしてる場合じゃないの、帰りたいのよ!
と、機嫌悪そうに完全拒否のおばあちゃんに、「この先生は社交ダンスもされるんですよ。」とスタッフが先生を紹介すると、顔色がパッと変わり…

おばあちゃん「昔はよくホールで踊ったわよ!ワルツとかさ、ルンバとかさ!」

私「え?そうなんですか?」

おばあちゃん「そうよ!いまは、足がこんなになっちゃって出来ないけど、いまだって覚えてるわよ!」

その声に、先生がこうおっしゃいました。
「私がリードします。是非、ワルツを踊りましょう。踊れますよ。」

と、おばあちゃんに手を差し出すと、握っていた杖をポイと放り投げて…

先生のリードに身を任せ、素晴らしいステップを踏んで、デイサービスのフロアを踊って見せます。

スタッフ一同、心の声で
(えーーーっ!膝は!膝!膝痛いんじゃなかったの!!さっきまで痛い、痛い騒いでたのに、ワルツ踊ってるしー!)

と、思うと同時に、ダンスが痛みを忘れさせていることに驚きました。


若い頃、男性にリードされて踊った感覚を思い出しているのだろう…そして、まだ覚えている、楽しいという思いが痛みよりも先行しているのだと思いました。

少しの間のステップでしたが、なんと満足なお顔をされていたことか!

一人暮らしで、寂しさもあり、いつも何かを心配していて、膝が痛いことで、行動も消極的になっていって。
自分らしさを忘れかけていたところに、思いがけないダンスの誘いだったのでしょう。

久々のダンスに興奮し、やりすぎて後から痛みが増すことがあるのでは!?と、心配でドキドキしましたが、そのようなこともありませんでした。

「病は気から」という言葉がありますが、まさにこのことだなぁと思わされた出来事でした。


私たち介護士は、病をもった方と触れ合う機会が多くあります。
自信を失ったり、諦めていたり。
それぞれに抱える悩みや思いを、少しでも楽しく過ごせる!普段の悩みも忘れて過ごせた!と感じてもらえるような手助けが日々出来たらと思っています。

Posted by おこないちかこ on  | 0 comments 
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